レジトラ・アドバイザーの黒澤亨さんが、2024年9月1日(日)に開催された佐渡国際トライアスロン大会でロングディスタンスを初完走。また佐渡佐渡を舞台とする長距離系イベントすべての完走者を讃えるオンヨネカップ「Long ASTRO Series」完走を達成されました。
どんな練習をされてきたのか、どんな作戦で佐渡ロングを走り切ったのか。その背景をお伺いしました。
「アイアンマン」より長い国内最長トライアスロン
佐渡国際トライアスロン大会は、新潟県佐渡島で毎年開催される日本有数のトライアスロン大会です。
この大会は2024年に36回となる長い歴史を持ちます。
佐渡の美しい自然を活用した挑戦的なコースが、国内外のトライアスロン愛好者から人気を集めています。
Aタイプ(ロングディスタンス)とBタイプ(ミドルディスタンス)がメインで、ロングはスイム: 4.0 km、バイク: 190 km、 ラン42.2 kmと国内最長を誇ります。
トライアスロンの代名詞的大会「アイアンマン」よりもちょっと長いんですよ。
佐渡の長距離系イベント完走者「オンヨネカップ」
オンヨネカップとは、新潟県のスポーツウェアメーカーである「オンヨネ」の名を冠するスポーツ大会です。
「Long ASTRO Series」では、佐渡を舞台とする以下の長距離系イベント4大会の指定カテゴリーを完走することが条件です
- 4月21日 佐渡トキマラソン(フルマラソン)
- 5月19日 佐渡ロングライド 210(210km)
- 7月21日 佐渡オープンウォータースイミング(3,000m以上)
- 9月1日 佐渡国際トライアスロン大会(Aタイプ)」
黒澤さんは、今シーズン初の佐渡大会ロング完走とオンヨネカップ「Long ASTRO Series」に挑戦し、見事達成。そんな黒澤さんに、今シーズンを振り返っていただきました。
ロング完走を目指す方の参考になるお話が伺えましたよ!
目標設定と実際のタイム
目標タイム
まずは目標設定について教えてください。
とにかく完走!でした。
目標タイムは、以下のように設定しました。
- スイム 1時間20分(2:00/100m)
- T1 10分
- バイク 7時間40分(25km/h)
- ラン 6時間00分(8:31/km)
- 総合15時間20分
実際のタイム
実際のタイムはいかがでしたか?
実際のタイムは以下のとおりです。
- スイム 1時間17分(1:56/100m)
- T1 8分
- バイク 7時間42分(25km/h)
- ラン 5時間36分(7:59/km)
- 総合 14時間44分
目標を大きくクリアされましたね!
全体を振り返っていかがでしたか
スイムとバイクは、練習で良い感じをつかんでいたので、計算通りです。
ランは、足がつって歩くだろうと想定して、余裕をもった目標タイム設定としました。
しかし、足つりは28km地点の左太ももだけで済みました。
ストレッチ したら、すぐに走ることができてよかった!
ロングを走り切るためのトレーニング
1週間の練習時間は、ロング制限時間を目標に
佐渡のロングを走りきるために、どんなトレーニングをされたんですか?
バイクの時間が一番長いので、バイクの練習時間を優先しました。
1週間の練習時間は、佐渡のロング制限時間15時間になるように設定。
スイム1時間20分、バイク7時間40分、ラン6時間としました。
これは、距離を踏むためではなく 「外で1日中遊べる体力を養う」が目的です。
実際のレース前12週間の1週間平均練習量は、スイム1時間40分、バイク5時間50分、ラン2時間30分。トータル10時間というこで、目標の7割程度でした。
バイクはロングライドと給水補給の練習
重視したバイクはどんな練習を?
2か月前から、バイクの出走時刻である午前7時30分にあわせ、100~150kmライドを計6回行いました。
これは、実走を想定。お腹にハイドレーションバックを抱え、15分おきに給水する練習でもあります。
お腹ハイドレーションバックは、本来は背中に担ぐものなんですが、ホースを短くカットして腹側に首からつるしました。
こんな感じです。
本番では、お腹ハイドレーションバックで余った分のボトルゲージは、掛け水用の水を入れて走りました。
平日は短時間、週末に長い練習
スイムやランはいかがですか?
平日は仕事などあり、時間がとりにくいですよね……
平日は……
月曜 短いスイム
火曜 休み(常願寺ハイツ休み)
水曜 短いバイク(3本ローラー30分程度)
木曜 短いラン30分程度
というサイクルにしていました。
ただ、できないこともありましたよ。
平日は30分程度なんですね。
それならできそうな気がします。
長い距離の練習は週末ですか?
3種目とも、週末に距離を伸ばした練習をしました。
金曜の夜 ロングスイム4,000m
土曜 ロングライド150km
日曜 ロングラン20km
を目標に取り組みました。
週末は、まとまった時間がとりやすいですもんね。
それに、本番同様に前の種目の疲労が残った状態で、次の種目に入る練習にもなりますね!
スイムとバイクは予定通りできました。
でも、苦手のランは16kmくらいで足が止まることが多く、疲れた状態でのロングラン練習ができなかったのが反省点です。
「不足したものを補う」補給作戦
補うのは水分、塩分、糖質
ロングは時間が長いため、補給も重要だと思います。
補給はどのようにされましたか。
「レース中に不足(消費、排出)したものを補う」というシンプルな考え方です。
大切なのは水分、塩分、糖質(エネルギー源)の3つです。
水分
水だけを摂りすぎると、低ナトリウム血症になってしまうので注意が必要です。
ボトルゲージ1本は、電解質錠剤(トップスピード)を3個を水に溶かして30分おきに給水しました。
バイクのお腹ハイドレーションには、MAURTEN Drink Mix 320を2個1㍑に溶かして補給。
4つ目の小木エイドで、なくなったので前の蓋を開けてアクエリアスを1Lを補充しました。
※ボトルを取らなくてもよく、自分で補充することができるが、この方法はアイアンマンでは禁止らしいです。
バイクの水分の総量は以下の通りです。
- お腹ハイドレーション1L×2
- 500mlボトル×4
計4リットルでバイクの時間7.7時間で割ると、1時間あたり519mlとなりました。
塩分
塩分は計算するのがとても難しいので、すでに計算されてナトリウムが配合されているスポーツドリンクを活用することで対応しました。
糖質
朝食~レース前
レース前や朝食には、何を食べますか?
一般的に消化には3時間かかると言われています。
そこで、スタートの3時間前までに、ヨーグルト1個、おにぎり2個を食べました。
スタート直前の30分前に固形物は避けて、すぐにエネルギーに変わるMAURTEN Gel 160を1個摂りました。
補給の必要量の算出方法「METs」
ロングのレースで、何をどれだけ食べればいいのかは、多く選手が苦心することかと思います。
どう考えましたか?
レース中の補給は、 自分のスピードと時間をもとにメッツ(METs=Metabolic Equivalents、代謝当量)を算出し、エネルギー量を計算しました。
まず、レースを走り切るために必要なカロリーは以下のように算出します。
基本の計算式は、「 1.05×Mets(運動強度の係数)×運動時間(h)×体重(kg) 」です。すると私の場合は以下のようになります。
スイム 1.05×9×1.7×67=1,076
バイク 1.05×9×7.7×67=4,875
ラン 1.05×8×6×67=3,377
Total 9,328
ここから、自分の体に蓄えているエネルギー量を引きます。
必要量がおおよそ9,000kcal。蓄え分(脂肪、筋グリコーゲン、朝食)約4,600kcalを引くと、4,400kcalが必要ということですね。
これをジェルだけで補おうとすると、ジェル1個が160kcalだとして約28個必要に。
さすがに30分に1個だと身体的も経済的にも厳しいので、1時間に1個として全部で15個用意して補給しました。
「1時間おきにMAURTEN Gel 160を1個」ならシンプルです。
今回は、MAURTEN Gel 160を入れるため、トップチューブバックを導入しました。
バイク~ランの補給
MAURTEN Gel 160は腹持ちが良くて、あとはエイドで小さいおにぎり3個と梅干を5個食べました。
というわけで、今回のバイクでのエネルギー補給は、お腹ハイドレーションにMAURTEN Drink Mix 320を2個、MAURTEN Gel 160を14個、エイドの小さいおにぎり3個と梅干5個でした。
T2では、MAURTEN Gel 160を1個を補給し、ランでも1時間おきにMAURTEN Gel 160を補給しました。
バイクの後は42kmのランが待っています。
しっかり補給しておきたいところですね。
補給エネルギーの総量
というわけで、補ったエネルギーは、以下の通りです。
レース前にMAURTEN Drink Mix 320を1個、バイク2個、合計3個で960kcal。
MAURTEN Gel 160は、レース前に1個、バイク・ランで13個で合計14個(2,240kcal)、バイクとランで塩ジェルを2個(33kcal)補給し、エネルギー量は計3,266kcalでした。
必要量4,400kcalに対する不足分1,134kcalは、おにぎり3個、 梅干し5個とアクエリアス(バイク1L、ラン1L)でカバーできていたのかと思います。
今回の補給では、特に空腹感もなく最後まで割と元気でした。気持ちが折れることもなく、押し切ることができました。
ちなみに、補給には鮭とばをよく利用するのですが、今回は宿泊所に忘れて使えませんでした。
鮭とばの塩分が体内への水の吸収を進めると同時に、咀嚼による唾液が消化 を助け、効率よくエネルギーを補うことができます。
また乾き物は軽いため、携行するのに便利です。
なるほど!
運動しながらの長丁場の補給は、消化しやすさも大切ですね。
黒澤さんが補給の参考にした記事はこちら
足つり対策にマグネシウム
ロングでは、ランの足つりに苦しむ方も多いようです。
私もそうです。
4月のトキマラソンでは、35km地点で両ふくらはぎがつって、ラスト7kmは歩いてフィニッシュしました。
そこで、今回は1週間前から、足つり対策を始めました。
体内のマグネシウムや水分が不足すると、筋肉の収縮や神経の伝達がうまくいかなくなり、足がつると言われています。
そこで、まず皮膚からマグネシュウムを吸収しておこうと、1週間前からバスソルトを浴槽に入れ入浴しました。
また、3日前からウォーターローディングとして、1日1本経口補水液「OS-1」をちびりちびりと飲みました。
さらに、前日の夜に「Mag-on(マグオン)」の顆粒を飲み、レース中は「こってりミネラルタブレット 2RUN ツゥラン」を要所で1個ずつ計6個(3袋)飲みました。
このほかにも、私設エイドで提供されていた「プレシジョン」のドリンクミックスを小さいコップで10kmごとに3回飲みました。
今回は足のつりがほとんどなく、効果はあったと思います。
ただ、思いつくことを1度に全部やったので、どれが効果的だったかは不明です(笑)。
暑さ対策のペンケースと昼休みラン
そのほか、これはやっておいてよかったということはありあますか
ランの氷入れ用に用意したメッシュのペンケースはオススメです
メッシュ素材で、氷が体温で溶けるのが気持ちよく、エイドごとに補充しました。
エイドで氷を入れて手のひらを冷やすのが心地良く、首筋や脇の下を冷やすのにも、ちょうどいい大きさです。
この他の暑さ対策としては、暑熱適応(順化)のため、1か月前からお昼の休み時間に約20分間、ゆっくり走るようにしました。
よい体調を保つ生活管理
年齢を重ねると、疲労が取れにくかったり、ケガしやすくなるかと思います。
そうですね。
そのため「いつも良い体調で練習する」ことを心がけています。
例えば、持病の脊柱管狭窄症対策として、朝起きたときと寝るときに、仙骨部分に2個つなげたテニスボールを約3分間あてています。
仕事中は座りっぱなしになるので、30分に1回は立って体を動かします。
また『スタンフォード式 脳と体の強化書』を参考に、「IAP呼吸法(腹圧をかけたまま息を吐く)」を隙間時間に行っています。
このほか、「夜更かしも早寝もしない」「週末に体内時計を狂わせない」「 床に入る90分前までに入浴する」「 ダメージを負った際は、無理のない範囲で体を動かす」など、体調管理に努めています。
目標を達成し、来年も楽しみ!
レースを終えていかがですか?
一番苦手なランニング対策として、朝食前に鼻呼吸で30分スロージョギングを始めました。
朝日を浴びると、セロトニンが分泌され、快眠できるらしいんですよ。
ほんと、健康的ですね(笑)
今年は、短期的な目標として4月のトキマラソン、5月のロングライド、7月のオープンウォータースイミングの完走がありました。
そして、長期的な目標を9月のトライアスロン完走とし、短期・長期の2つで1つとなる目標を設定しました。
オンヨネカップのグランドスラム挑戦は、スケジュール的にも目標実現にちょうど良かったと思います。
佐渡では、イメージ通りのレース展開で完走できてとにかく良かった。ランの最後で、商店街の皆さんからいただいた声援は忘れられません。
フィニッシュできたときは、一緒に行ったメンバーや大会関係者の皆さん、沿道で応援してもらった皆さんへの感謝でいっぱいで「不可能はないんだな」と感じました。
来年はどこのレースに参加するか、ワクワクしながら待ち遠しく、調べているところです。
目標を見事達成した黒澤さん。
今回は貴重なお話をありがとうございました!